医療業界のSaaS利用のメリットとSaaS利用時のセキュリティ対策について解説
大量の患者情報の管理や紙ベースのデータ管理の複雑さなど、医療業界では運用面で多くの課題を抱えています。情報の一元化やデータアクセスの容易さなどの観点から、医療DXがすすみ、医療分野においてもSaaSの導入が注目されています。
本記事では、医療業界のSaaS利用のメリットとセキュリティ対策を解説しています。また、SaaS導入時の注意点についても解説します。

目次
医療業界が抱える課題の解決策としてSaaS利用が注目されている
医療業界では、患者情報管理の複雑さや紙ベースのデータ管理によるリスクが長年の課題です。問題を解決する手段として、SaaS(Software as a Service)の導入が注目を集めています。
SaaSは情報の一元管理やリアルタイムでのデータ共有を実現し、煩雑な事務作業の軽減や治療の遅延などを防止する効果が期待されています。病院への導入により、患者データの整理が効率化され、各部署間での情報共有がスムーズになることもメリットの1つです。
医療業界にとってクラウドベースのソリューションは、現場の業務効率を向上させるだけでなく、最終的には患者へのケアの質を高める可能性も期待できます。
医療業界がSaaSを導入するメリット

医療業界がSaaSを導入するメリットとして、次の内容が挙げられます。
- 情報の共有が迅速化する
- 診療カルテの管理負担が軽減する
- 運用・保守コストを抑えられる
- 災害時にもアクセスしやすい
それぞれのメリットの詳細をみていきましょう。
情報の共有が迅速化する
医療業界でSaaSを導入するメリットの1つが、情報共有の迅速化です。クラウド技術を活用することで、医療システム内の情報がリアルタイムで更新・共有されます。従来の口頭での伝達やメモに頼る方法から脱却し、必要な患者情報や治療データを即座に関係者間で共有できることが特徴です。
患者への投薬量など、1つの伝達ミスが重大な事故を起こしかねないのが医療業界です。システム上で正確な情報が一元管理されることにより、聞き間違いや記入ミスによる医療事故のリスクが低減します。情報共有の効率化は、最終的に患者の安全性向上と医療サービスの質的改善にもつながります。
診療カルテの管理負担が軽減する
医療現場でのSaaS導入は、診療カルテの管理負担を軽減します。クラウドツールのフォルダ機能を活用することで、診療データを患者ごとに効率的に整理できるようになり、医師や看護師をはじめとする全スタッフが患者の症状や変化を迅速に確認可能です。
インターネット接続環境があればどこからでもアクセス可能なため、電子カルテを院外に簡単に持ち出せることで、医師が自宅や往診先からでも必要な情報を参照できます。
在宅医療の普及が進む現代では、システムを院外に持ち出せる特性は、時代のニーズにもマッチしています。
運用・保守コストを抑えられる
医療業界でSaaSを導入するメリットとして、運用・保守コストの削減が挙げられます。クラウド化によって、これまで必要だった診療記録の印刷や物理的な保管にかかる費用がかかりません。紙の消費量や保管スペースの確保などのコストが軽減されることで、医療機関の経営効率が向上します。
さらに、自社でシステムを構築する必要がないため、ITインフラの維持にかかる保守運用コストも抑えられます。専門的なIT人材の確保や設備投資が不要で、医療本来の業務に集中できる環境を整えられるでしょう。
オンプレミス型のシステムの場合は、初期費用が高額になるだけでなく、システムのアップデートやメンテナンスにも継続的なコストが発生します。
災害時にもアクセスしやすい
医療業界でSaaSを活用するメリットとして、災害時のデータアクセス保証も挙げられます。従来のシステムでは、病院の情報全体がその施設内に保管されているため、地震や水害などの災害発生時に建物が被災すると、各種データへのアクセスが困難になり、最悪の場合は失われてしまうリスクもありました。
災害発生時に、システムが停止し、X線やCTなどの画像を含む重要な患者情報にアクセスできなくなる可能性があります。一方、SaaSを導入することで、患者情報がクラウド上に安全に保護されるため、災害時でもインターネット環境さえ確保できれば、迅速にデータにアクセス可能です。一時的な避難所や他の医療施設からでも継続的な医療サービスを提供できます。
SaaSを導入する際の注意点

SaaSを導入する際の注意点として、次のポイントがあります。
- セキュリティ強度は十分か
- 運用コストが予算内か
- 自社に合わせて機能を柔軟に調整できるか
それぞれの注意点を解説するため、導入の参考にしてみてください。
セキュリティ強度は十分か
医療業界でSaaSを導入する際の注意点の1つが、セキュリティ強度の検証です。クラウドサービスが提供するセキュリティレベルが、医療機関の厳格なセキュリティポリシーに合致しているかを慎重に見極めなければなりません。
特に患者の個人情報や診療データなど機密性の高い情報を取り扱う医療機関では、情報漏洩のリスクを最小限に抑えることが絶対条件です。そのため、ベンダーが実施している脆弱性診断の頻度や内容、不正アクセスに対する防御策、データの暗号化方式などを詳細に確認することが重要です。
また、医療情報システムのセキュリティガイドラインへの準拠状況や、第三者機関による認証取得の有無なども重要な判断材料といえます。
運用コストが予算内か
医療機関がSaaSを導入する際に見落としがちな注意点として、長期的な運用コストの予算管理があります。SaaSの料金体系はサブスクリプション形式が一般的であり、初期費用を抑えられる反面、利用料が毎月継続的に発生することに注意が必要です。
大規模な医療機関や病院グループでは、全施設・全スタッフ分のライセンスを導入する場合、累積コストは想像以上に膨らむ可能性があります。当初の想定を超えるランニングコストにより、財務負担が大きくなるリスクがあるため、導入前の綿密な費用対効果分析が必要です。
リスクを回避するためには、必要最低限の部署や業務からの段階的導入、スケーラブルな料金プランの選択など、実際の利用状況に応じて柔軟に調整できるSaaSを選ぶことで、無駄なコストを削減できます。
自社に合わせて機能を柔軟に調整できるか
医療機関がSaaSを導入する際のポイントとして、業務プロセスとの適合性とカスタマイズの柔軟性があります。SaaS選定では、自社の特有のニーズに合った機能が標準で備わっているかを精査するとともに、将来的な業務拡大や変更にも対応できる汎用性を確認することが不可欠です。
SaaSは、クラウド環境に用意されたソフトウェアを多くの企業が共有して利用する形態であるため、個別の医療機関特有の業務フローに合わせたきめ細かいカスタマイズが難しい場合があります。医療現場では診療科ごとの特殊なワークフローや、施設独自の記録方法などがあり、これらに対応できないと業務効率が逆に低下するリスクもあるでしょう。
SaaS導入時のセキュリティ課題について

SaaS利用時のセキュリティ課題として、サービス選定の際に気を付けるべきことと導入後の利用時に求められる点は異なります。それぞれの時点で必要となるセキュリティ対策を解説します。
サービス選定時に検討すべきセキュリティ
SaaSでは、ハードウェアやネットワーク、OSなどの基盤的なセキュリティ対策はすべてサービスプロバイダー側が担当する仕組みです。脆弱性への対応やセキュリティパッチの適用、データのバックアップと復旧体制の整備などは、サービス提供側に責任があります。
そのため、医療機関などのユーザー側は、セキュリティ対策が十分とられているSaaSツールを慎重に選定しなければなりません。特に医療情報のような機密性の高いデータを扱う場合は、脆弱性診断の頻度やインシデント対応体制、データ暗号化方式、バックアップなどを詳細に確認することが不可欠です。
サービス利用時のセキュリティ対策
導入後のセキュリティ対策として、各端末のセキュリティ対策やID・パスワード管理の徹底は基本となります。
また、SaaSはIDとパスワードが分かればどこからでも端末を選ばずに接続できるため、認証の強化と適切なアクセス制御を行うことでセキュリティを強化する必要があります。また、シャドーITの可視化や、正式に契約しているクラウドサービスの利用状況把握も重要です。
SaaS導入を進める際には、IDaaS(クラウド型ID管理サービス)の併用が特に効果的です。IDaaSはシングルサインオン(SSO)機能を活用して複数のSaaSへのアクセスを簡素化するとともに、多要素認証やきめ細かいアクセス権限管理を標準装備しており、利便性とセキュリティの両立に貢献します。
まとめ
本記事では、医療業界のSaaS利用のメリットとセキュリティ対策を解説しました。医療業界では、患者情報管理の複雑さや紙ベースのデータ管理によるリスクが長年の課題です。問題を解決する手段として、SaaS(Software as a Service)の導入が注目を集めています。
SaaS導入によって情報の共有が迅速化することや、診療カルテの管理負担軽減などさまざまなメリットがあります。オンプレミス型のシステムと比較して運用・保守のコストを抑えられることや災害時にもアクセス可能なことなどもメリットとして挙げられるでしょう。
SaaS導入時の注意点やセキュリティ対策も解説しているため、医療業界でSaaS導入を検討している方は参考にしてみてください。
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