付箋機能の開発背景とワークフローの可能性
効率化の先に見えた課題
私たちは、ワークフローという仕組みに強いポリシーを持ち、無限の可能性を信じています。人に依存することで発生しがちな、 場当たり的で混沌とした業務や業務プロセスを整理し、 標準化・仕組み化する。ワークフローシステムの美しい在り方です。
しかし、システムを構築しても、ユーザーからの声には、いつも共通した切実な願いが込められていました。それは、「もっと早く、もっと正確に処理したい」という、極めてシンプルなものです。
私たちが提供する社内稟議システム グルージェントフロー は、間違いなく稟議業務の効率化に貢献してきました。紙の申請書をデジタル化し、ハンコ出社を減らし、承認印を得るためにフロアを歩き回るという時間を削減し、承認ルートの透明性を高めました。しかし、申請から承認に至るまでの「時間」はゼロにはならず、もっと圧縮できるのではないかと考えています。
なぜ、時間がかかるのか?
私たちは、何百、何千というお客様の利用内容や課題に寄り添い、分析し解決へと導いています。すると、私にある答えが見えてきました。なぜ、申請から承認までに時間がかかるのか、その答えは「申請内容の確認・理解に時間がかかるから」なのです。
情報のメリハリが失われた、デジタル画面

申請書の内容が長大化するにつれ、承認者はどこに重要な情報があるのか、何が変更されたのか、なぜこの申請が必要なのか、を一から読み解かなければなりません。グルージェントフローでは、情報をフラットに扱っていました。すべてのテキスト、すべての数値が、等しい重要度で画面に並べられる。これが、かえって承認者に負荷を与え、確認や判断の時間を要していたのです。
申請内容に、情報のメリハリをつけたい。注目すべき項目をハイライトさせたい、ココがPointだとアテンションを入れたい。この強い問題意識が、すべての始まりでした。
メリハリがある方が、確認・承認時間が短く済む。これは、人間の注意・認知のメカニズムから考えて、論理的な結論です。もし、重要箇所が一目でわかれば、承認者は判断を要する箇所にのみ集中でき、それ以外を流し読みできます。これにより、もっと申請・承認業務を迅速化できるはず、と確信しました。
付箋という解決策

「情報のメリハリ」の付け方として、私たちは様々な方法を検討しました。
- AIによる重要度判定と自動ハイライト: 何をもって重要とするかという指標が人に依存するケースが多く、また、AIが誤った判断を下すリスクは避けられない。
- 申請者による色付け・装飾機能: 申請者の感性や経験で色付けや装飾を行うため、視覚的なノイズとなるリスクがある。左記により、標準的な「文脈」を乱す可能性がある。
いくつかのアイデアが出る中、私たちが追求したのは、「(システムにとっても)シンプルな解決方法で、ユーザーの負荷を下げる」という解決策でした。
そんな時、ふと、本に貼っていた付箋に、目が留まりました。
想定外の効能:自由なテキストの表現力
「付箋」という解決策を選択した理由は、以下の通りです。
- 付加的であること: 申請データそのもの(エビデンスとして残すべき公式な情報)を汚さずに、補足情報を追加できる。つまり、ワークフローとしての役割を全うし、申請データの完全性を担保する必要性を満たしています。
- 物理的な「メリハリ」:上面に貼り付けることで、視覚的に飛び出し、注意を惹きつける特性が、まさに求めていた強調・ハイライトを実現します。
しかし、この付箋というツールによる実装を進めるうち、私たちは想定外の効能に気づくことになります。当初、付箋の目的は、単なるハイライトや補足情報の提供、つまり「どの項目を見てほしいか」を指し示すことでした。
ところが、付箋の最大の特長は、「自由にテキストが書けること」でした。
承認者が知りたい情報は、申請項目の値ではありません。「なぜ、このタイミングで申請するのか」「前回と比べて、どういう意図でこの数字にしたのか」「取引先との交渉における微妙な機微」といった、申請データからは読み取りにくい「文脈」を知り、判断したいのです。
欠落したコミュニケーションの補完
「自由にテキストが書けること」がなぜ良いのか、気づきましたか?
ワークフローをはじめ、デジタル化し業務を効率化した結果、私たちは「対面ならではの機微を伝達できるコミュニケーション」を一部欠落させてしまっています。
- 昔の紙ベースの承認: 申請者が承認者の席まで申請書を持参し、「部長、昨日お伝えした件です」と口添えし、頭を下げ承認依頼することができた。また、承認者が申請者に近づき、「これ、どういうこと?」と口頭で尋ね、申請者は数字の裏にある「熱意」や「背景」を表情や声のトーンで伝えることができた。
- 今のデジタル承認: 申請・承認はすべてシステム上で完結。コメント欄はオフィシャルデータとして扱われるため、形式的で冷たいものになりがち。事前の根回しや質問は、ワークフローシステムとは別のビジネスチャットやコミュニケーションツールを用いて行われる傾向が高く、結果的に、申請・承認プロセスとは切り離されて運用されるケースが多い。

付箋に自由なテキストが書けるということは、この欠落した部分を補うことができると考えています。(その効果を実証するためにお試しくださいね。
例えば、
- 「この金額は予算オーバーですが、A社の今回のディスカウントは今後二度とないチャンスです。来期予算から前倒しする形でお願いします。」
- 「部長、先日の会議でご指摘いただいた懸念点については、この付箋に記載した通り、すでに◎◎◎という対策を講じております。ご安心ください。」
このように、申請者は、正式な申請書の外側で、自身の「感情」や「機微」といった、人間的な文脈を伝えることができるようになりました。これは、効率化によってドライになった業務プロセスに、再び、人の温かみと判断の柔軟性を取り戻せる一手となり、業務の円滑化に寄与するでしょう。
ワークフローシステムに、カジュアルなコミュニケーションを担う役割を付与したという意味では、従来にない機能になったと考えています。
付箋の実装でこだわったこと:残すものと残さないもの
付箋機能の実装において「残すものと、残さないもの」という区分に神経を費やしました。
公式データと非公式な文脈の分離
ワークフローの申請書は、会社にとっての公式な記録です。ここに記載された数値、日付、承認の事実は、監査や内部統制の観点で適切に保全・管理されるべき対象となり、変更されてはなりません。これは、システムが保証すべき最も重要な「事実」です。
一方で、付箋に書かれた内容は、承認者が判断を下すための一部分の情報です。それは、申請者の意図、裏側の交渉経緯といった、時間と共に価値を失う情報、あるいは、公式記録に残すべきではない情報があります。
したがって、私たちは、付箋の情報を申請データ本体とは厳密に分離し、以下の設計原則を適用しました。
- 申請データ本体: 永続的に保持され、変更履歴が厳しく管理・蓄積される。
- 付箋のテキスト: 承認が完了した時点で、その役割を終えるものとして設計する(保持期間はシステム設定に委ねるが、公式記録ではない)。
これにより、ユーザーは安心して付箋を「伝言メモ」や「注意」として使うことができ、一方で、組織は公式記録の完全性を維持することができます。
コミュニケーションの表現力による時間短縮
付箋の一番の効能は「情報のメリハリ」と共に、自由にテキストが書けるという表現力豊かなコミュニケーションの実現による、全体としての申請・承認時間の短縮です。
承認者が抱く疑問の多くは、付箋のたった一言で解消されるでしょう。「これってどういう意味?」「なんでこの数字なの?」という、わざわざチャットや口頭で確認する手間が確実に減ります。この「手間」を排除することが、業務の迅速化であり円滑化に繋がると考えます。
最後に:ユーザーと共に育むワークフローの可能性

この付箋機能は、私たちが導き出した一つのソリューションです。しかし、これらは全て、サービスプロバイダー側が作った利用例でしかありません。私たちは、この機能が単なる「メモ機能」として終わることを望んでいません。ユーザーの皆さんが持つ、業務に対する深い知恵と創意工夫により、この付箋機能はもっと多くの価値を生む存在になると信じています。
- あるチームでは、「重要度:Sランク」のように独自のタグ付けルールを定めるかもしれません。
- ある企業では、承認ルート上の特定の承認者に向けた「遅延の説明」として使うかもしれません。
- またある組織では、承認後の「反省点」や「将来への課題」を一時的に残すための備忘録として使うかもしれません。
もっと自由に使ってください。 私たちが想像もしなかった、素晴らしい活用方法をぜひ見つけてみてください。もちろん、付箋機能をもっと便利にもっと多くの業務で活用するために「こんなことできたら良いな」「追加で****を足せないかな?」といった、ご要望やご意見、ご感想も大歓迎です。
ぜひ、付箋機能の活用方法やご要望・ご意見をお寄せください。お待ちしております。